印刷屋さんのジレンマ

今日、時間があったので会議所で来年担当する予定の例会のチラシをパソコンで作っていたのですが、その過程で現代の印刷屋さんが抱えている(であろう)ジレンマのようなものに気づきました。

どこの印刷屋さんでも、当然ですがカラー印刷よりモノクロの方が値段が安いですよね。昔はテレビだってモノクロよりもカラーの方が高かったですし、まあ「モノクロよりカラーの方が高い」というのはごくごく一般的な感覚かと思います。

が、印刷屋さんの仕事というのは紙を印刷機に通すことだけではありません。顧客から文章や写真、キャッチーコピーや、はたまた「要望」という極めてソフトウェア性の高い材料を元に、紙面をデザイン&レイアウトし、印刷にかけるわけです。

もしかしたら「デザイン料」という項目を請求書に載せているところもあるのかもしれませんが、私の知るかぎり、普通は「A4表裏◯色刷×何枚」ということで請求が来ます。もちろん、印刷する限りデザインをする人はいるわけで、その人が働いた分は「A4表裏◯色刷×何枚」の中に入っているのでしょう。

今の時代、印刷作業そのものはほとんど機械化されて、作業あたりにかかる人的コストはどんどん下がっていることは容易に想像できます。半面、人間の、特に頭を使わなければならない仕事の単価は高くなっていく傾向にあります。

さて、私の気づいたジレンマが発生するのはここです。つまり、「印刷物が完成するまでにかかるコストを人件費も含めて考えると、実はカラーよりモノクロの方が高くつくのではないか」ということです。

その原因は「モノクロよりもカラーの方が表現が容易である」という、考えてみれば当たり前のことにあります。水彩画なら小学生でも描けますが、水墨画となると大人でもなかなか難しいですよね。私も実際に自分でデザインしてみて、「これを単色で作れと言われてなくてよかった」と思ったくらいです。きっと単色刷の依頼を受けたデザイナーさんは、カラーのときよりも頭を使って仕事をしているはずです。

まあ、そこはそれ、プロはそれなりのノウハウを持っているのかもしれませんが、素人の私が察するに「カラーよりモノクロの方が安く見られている」という事実は、業者さんにしてみればかなりのストレスなのではないかと思います。

そういう状況に比べれば、たとえ悪名高き「人月」という形であっても「頭を使った分を請求できる」ソフトウェア業界はまだマシなのかな、とも思えます。まさかコンパイラの吐いたバイナリの大きさによって請求額を決めているソフトウェアハウスはないでしょう。また、ソースコードの行数で請求を立てるという話も聞いたことがありません。普通は、何人のプログラマが何日働くので、これだけいただきますよ、という見積りを立て、その見積りの中で仕事をするわけですが、これとて想定以上に難しいことが後から分かることはままありますし、その逆も然り。見積りをしっかり立てられるようになったら、その人はそれだけで一流と名乗る資格があります。

もっともソフトウェアの世界にしても、昨日まで非常に困難だったことが、今日になって簡単に、あるいは圧倒的に安いコストでできるようになることがあります。典型的な例は各種のオープンソースソフトウェアで、他の人の成果を無償で自由に利用して構わないのですから、これほど楽なことはありません。もっとも利用するには、知識や経験が不要ということはないのですが、一から自分で作る労苦とは比べ物になりません。

私は根が不精なので、自分で作る前に、似たことをしている人がいないかをまずインターネットで調べます。もしそれが公開されていればありがたく利用し、そうでなければ最小限の労力で済むような方策を立てます。

そういう意味でインターネットというメディアは、まず誰よりもソフトウェア開発者にとって福音でありました。「車輪の再発明を防ぐ」という意味でも、人類の福祉に貢献しているとさえ言えるでしょう。

かくしてプログラマのストレスは減り、ソフトウェアは安くなり、顧客の満足度は向上するという誠に理想的な循環が生まれています・・・と言えたらいいのですが、世の中そう甘いものではなく、まあ現場では現場なりの苦労はあります。それと報酬を秤にかけて自分を納得させることのできる人だけが、職業としてやっていける世界なのだろうな、と思っています。

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